※ データ出典:Swiss Ramble。金額は特記なき限りポンド(£)表記。£1=約190円で換算すると肌感が掴みやすい。
プレミアリーグを制したクラブの「地味な決算」
2024/25シーズン、リバプールはプレミアリーグ優勝とチャンピオンズリーグ出場を果たした。先月、シーズンの財務レポートが公表されていたためちょっと覗いてみる。売上高(総収入)は£702.7m(約1,335億円)。イングランドのサッカークラブとして史上初めて£700mを超えた、文句なしの記録だ。
それなのに、最終的な利益はたったの£15.2m(約29億円)。
利益率にすれば約2%。街の小さな会社でも「それはちょっと…」と言われそうな数字だ。優勝クラブの決算としては、正直さみしい。
なぜこうなるのか。
その答えを読み解くと、サッカークラブというビジネスの「特殊な構造」が見えてくる。ちょっと付き合ってほしい。
そもそも、サッカークラブの「決算書」って何を見るの?
一般的な会社の決算書と同じで、サッカークラブにも損益計算書(P&L)がある。「1年間でいくら稼いで、いくら使ったか」を示す表だ。
ただし、普通の会社と大きく違う点が3つある。
① 収入が3つのバケツに入っている
| バケツ | 中身 | リバプール2024/25 |
|---|---|---|
| 📺 放映権収入 | TV放映料・リーグ/欧州大会の分配金 | £263.7m |
| 🤝 商業収入 | スポンサー・グッズ・ライセンス | £323.5m |
| 🏟️ 入場料収入 | チケット・ホスピタリティ | £115.6m |
| 合計 | £702.7m | |
放映権が最も変動しやすい。チャンピオンズリーグ(CL)に出るか出ないかで£100m規模の差が生まれることもある。前年(2023/24)にリバプールがEL(ヨーロッパリーグ)しか出ていなかったとき、放映権収入はわずか£203.7mだった。CL復帰の翌年に£263.7mへ跳ね上がったのは、まさにこの「欧州プレミアム」の効果だ。
② 「選手の給料」が普通じゃない規模
一般企業でも人件費は大きな費用だが、サッカークラブは桁が違う。
リバプールの2024/25の給与総額は£427.7m(約813億円)。
収入£702.7mのうち、実に61%が給料に消えていく計算だ。
ちなみに、サッカー界の一般論として「給与比率(Wages to Revenue)が70%を超えると経営危険信号」と言われる。リバプールの61%は中程度だが、それでも「稼ぎの6割が給料」という事実は重い。
③ 「選手の減価償却」という独自の費用がある
これがサッカークラブ財務の最大の特徴。
たとえば、選手Aを移籍金£100mで獲得し、5年契約を結んだとする。
この場合、£100mを5年で割った£20m/年が「選手償却費」として毎年費用計上される。
現金は契約時にほぼ出ていくが、帳簿上の費用は5年にわたって分散される——これが「減価償却」の仕組みだ。
リバプールの2024/25の選手償却費は£117.2m。これは現金の出入りとは関係なく、帳簿上だけで発生する費用だ。
数字で見るリバプール2024/25の「真実」
ここまでの知識を踏まえて、実際の損益計算書を見てみよう。
| 項目 | 金額 | ポイント |
|---|---|---|
| 放映権収入 | £263.7m | CL復帰で前年比+£60m |
| 商業収入 | £323.5m | 過去最高 |
| 入場料収入 | £115.6m | |
| 総収入 | £702.7m | 英国クラブ史上最高 |
| 給与 | △£427.7m | 収入の61% |
| その他営業費 | △£185.6m | |
| EBITDA | £102.3m | 本業の稼ぎ |
| 選手償却費 | △£117.2m | ⚠️ ここで赤字に転落 |
| 固定資産償却 | △£14.5m | |
| 営業損益 | △£29.5m | 赤字 |
| 選手売却益 | +£53.3m | 💡 ここが命綱 |
| 金融費用 | △£8.5m | |
| 税引前利益 | £15.2m | これが「£15mの謎」の答え |
見えてきただろうか。
収入は£702mあるのに、選手償却費£117mと給与£427mで、営業段階でもう赤字になる。
そこを選手売却益£53mで穴埋めして、なんとか£15mの黒字に着地している——それがリバプールの2024/25だ。
「EBITDA £102m」と「選手売却益£53m」——どちらが本当の実力?
ここで少し立ち止まって考えてほしい。
EBITDA(£102m)は、給料などの現金費用を払った後の「事業の稼ぎ」だ。選手の減価償却や売却益を除いた、純粋な営業キャッシュフローに近い数字。
選手売却益(£53m)は、選手を売ったときの一時的な収益だ。毎年同じように稼げるとは限らない
2024/25のリバプールは、この売却益がなければ最終損益は△£38m(赤字)だった。
経営的な表現を使うと、「稼ぐ力はある(EBITDA £102m)が、固定費構造が重く、資産売却に頼らないと黒字維持が難しい体質」だ。
給与比率でBig6を並べると、リバプールの立ち位置がわかる(24/25シーズン時点であることに注意!)
| クラブ | 給与 | 総収入 | 給与比率 | 評価 |
|---|---|---|---|---|
| Man Utd | £313.3m | £666.5m | 47% | 🟢 優秀 |
| Arsenal | £346.8m | £690.3m | 50% | 🟢 優秀 |
| Tottenham | £255.8m | £565.3m | 45% | 🟢 優秀 |
| Man City | £408.4m | £694.1m | 59% | 🟡 普通 |
| Liverpool | £427.7m | £702.7m | 61% | 🟡 やや重い |
| Chelsea | £359.3m | £490.9m | 73% | 🔴 危険水域 |
リバプールの61%は「中の上」あたり。Arsenalの50%が際立って優秀で、Chelseaの73%が突出して危うい。Man Cityより高いのね。。まあ4連覇時のベテラン勢が減っているとはいえ、、
ちなみに、収入が最も多いリバプールが給与も最も多いという構造は偶然ではないし気にしていない。良い選手を集めるにはお金がかかり、お金を払った良い選手がタイトルをもたらし、タイトルが収入を増やす——この正のサイクルの「維持コスト」が61%という数字に現れているように思える。
それでも「英国最高収入クラブ」がすごい理由
利益率2%と聞くと地味に思えるかもしれないが、視点を変えてみよう。
Big6の中で2024/25シーズンに税引前黒字を出したのはリバプールだけだ。
| クラブ | 税引前損益 | |
|---|---|---|
| Liverpool | +£15.2m | ✅ 唯一の黒字 |
| Arsenal | △£1.3m | |
| Man City | △£9.9m | |
| Man Utd | △£39.7m | |
| Tottenham | △£120.6m | |
| Chelsea | △£262.4m | 🔴 最悪 |
プレミアリーグを優勝し、収入記録を更新し、それでいてBig6で唯一の黒字——。
「優勝なのに利益£15mしかない」ではなく「優勝してBig6で唯一の黒字を出せた」と読み直すと、印象がかなり変わる。
まとめ
「収入は英国最高でも、選手の給与と償却費で利益はほぼ消える。それがプレミアリーグ・ビッグクラブの財務構造だ。」
リバプールの2024/25は、この構造の中でギリギリ黒字を維持した年だった。鍵を握ったのは選手売却益£53m——「良い選手を育て・売る」サイクルが財務を支えている。
ただし、この均衡は次のシーズン(2025/26)に一気に崩れる。イサク・ヴィルツ・エキティケ——3人の大型補強が、この精緻なバランスを揺さぶることになるのだが、それはまた今後。
参考:Swiss Ramble / Liverpool FC Annual Report 2024/25

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